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    かけはし2021年2月1日号

社会の分断・自死者の増加は政治の責任


コロナ禍

労働者・市民の運動で政府を動かし命を守ろう

自宅療養の女性が自死

 新型コロナに感染し自宅療養をしていた女性が自死した。「女性は夫と幼い娘の3人暮らしで『娘にうつしてしまったのではないか』と思い悩んでいた」と報道されている。
 これ以上の背景はわからないが、新型コロナの感染が子どもへのいじめや差別、また自分が感染させたかもしれない人への健康や暮らしへの影響を考えた時に絶望的な気持ちになってしまったのだろうか。新型コロナへの感染は、感染者に疾患そのものの苦痛だけではなく、社会的差別、経済的困難など様々な重荷を背負わされる。その重荷は理不尽なことに、感染前から脆弱な社会的基盤しか持たない人々に最も過酷にのしかかる。
 小池都知事は今回の事態を受けて「心のケアも必要だと強く感じた」と語った。心のケアは確かに必要だ。しかし心のケアが効果を発揮するためには医療と経済的支援がしっかりなされなければならない。感染者が抱える孤独や不安は、医療へアクセスできないこと、療養による経済問題がその原因になっていることは容易に想像できる。医療へのアクセスと経済的支援が都民に届いていたのか検証する責任がある。それを抜きの「心のケアの必要性」は、タレントのコメントと同じである。
 現在、東京都は都立・公社3病院をコロナ専門病院に転用することを決めている。現在都立は8病院だが、そもそも都立病院は16病院あった。石原都政は、それを8病院まで削減した。全国でも、総務省の策定した07年から新旧公立病院改革ガイドラインで、公立病院が経済性だけで評価され統廃合がなされてきた。その結果、公立病院の病床数は08年から18年までの10年間で、2万1052床も削減されている。今回の病床ひっ迫は医療費削減のための病床削減を行ってきた歴代政権による人災である。
政府は22日に罰則を盛り込んだ感染症などの「改悪」法案を閣議決定した。このような罰則の導入は、現場を混乱させ、検査忌避者を生み出し、感染者を犯罪者扱いする傾向を醸成し社会の分断と孤立を深め、今回のような自死者を更に生み出すだけである。
 コロナの自宅療養者数は全国で3万5千人を超え、緊急事態宣言が出ている11都道府県で昨年4月以降に18人が自宅療養中に亡くなっている。このうち15人が昨年12月以降である。3万5千人を超す人々が、入院したくてもできずに不安を抱えて暮らしている時に「入院拒否者に懲役」を科すような閣議決定を許してはいけない。

女性・子どもに重圧

 昨年の自死が750人増となった。減少傾向を続けていた自死者が昨年を上回ったのは09年以来11年ぶり。男性の自死者は11年連続で減少しているので、今回の増加は女性の自死者が増えたことが原因である。健康長寿医療センターの研究チームは「第2波では女性は37%の増加で男性の5倍、20歳未満の子どもでは49%上昇した。」と発表した。まさに10代の増加が目立ったのが昨年の特徴だ。小中高生の自殺者は過去最高の440人となっている。
コロナ禍はサービス分野で働く労働者に大きな打撃を与えた。ろくな補償もないまま強制された自粛営業は、シフト減による減収などにより暮らしを直撃した。それにもかかわらず、労働者の減った収入を直接補填する政策はない。今すぐに直接に減収分を補填する制度が必要だが、それまでのつなぎとして、一定収入に届いていない労働者に権利としての生活保護を申請することをすすめるキャンペーンを国の責任で行うべきだ。
自家用車を所有している等の制限を取り払い、一定以下の収入しかない労働者に対して一律に給付しないと自死者は増え続けてしまうだろう。また今やライフラインとなった携帯電話の使用を停止されないように、減収になった労働者の携帯電話料金を減免する制度が必要である。今日、携帯電話が止められてしまうことは、社会から切断されてしまうことに等しく支援を求めることもできない。
中高生の自死者が過去最高になったのは、昨年行われた学校の一斉休校が影響していることは間違いない。思いつきで行われた一斉休校は、休校が中高生や家庭へ与える打撃をケアする術をもたなかった。さらに休校以降拡大したオンライン授業では、生徒の家庭の経済力により大きな格差が生じてしまう。また一律の授業料・給食費・通学費の免除、奨学金の支給などが必要である。
補償なき自粛と、一斉休校という政府の誤った政策が今回の自死者増の原因である。11年ぶりに自死者が増えた昨年は、出生数が過去最低の85万人割れとなった年でもある。これはコロナ禍の日本社会が女性と青年世代に絶望を強制する社会であることをあらためて明らかにした。
これ以上の自死者を出さないために、医療への支援と労働者の生活を支える政策が今すぐ必要である。不要不急のオリンピック・軍事費への支出をやめさせ、暮らしと医療を最優先で守る予算への変更を実現するために、野党は統一した予算の組み換え案を提出するべきである。そのためには運動による野党への圧力が不可欠である。 (矢野薫)




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